Wuppertal 留学日記

2013年10月から1年間、交換留学でドイツへ行く機会に恵まれました。体験談などを書き残していきたいと思います。

65日目(12月4日 水) アニメ会再び

アニメ会再び

今日はJさんの家でアニメ会をすることになっていました。Jさんは日々新たなアニメを発掘することに余念がないようです。先日「おすすめは?」と尋ねられたため「『ガールズ&パンツァー』っていうのが面白いよ」と伝えていたのですが、先日見てみたそうでメッセージが送られてきました。

「なんで日本のアニメに出てくるドイツっぽいキャラクターは軍事的背景を持っていたり、異常に厳しかったりするの?あと銀髪の女の子はなんなの?」

だそうです。ドイツ=厳しいというのは一種のステレオタイプ(あるいはそれを下敷きにしたジョーク)だと思うのですが、軍事的背景と銀髪は分かりません。なんなの?
ガールズ&パンツァーは題材がミリタリックなものなので納得できるかと思いますが、それ以外にもなにかあるのでしょうか。

ステレオタイプについては、ドイツ人も「よく言われる」と感じているそうで、時には「またかよ!」とうんざりすることもあるようです。
外国に対するステレオタイプを題材にした作品と言えば『ヘタリア』があります。ドイツに来てから、ドイツ語版の漫画が売られているのを見たことがあったので、これも紹介したら面白いかもしれないと思い、「HETALIAって知ってる?」と聞いてみたところ「え?Hentai Italiaのこと?」という返事が。Hentaiなんて単語をどこで習ったのでしょうか。後日別の友人にもHETALIAを勧めたところ「え?Hentai?」と同様の反応をされました。自分が知らないだけで、実は「変態」は国際用語だったのかもしれません...。


さて、アニメ会は夕方からの予定でしたので、昼間は図書館に行っていました。
図書館には、何回か使ううちにお気に入りの場所ができたのですが、そこで宿題を片づけていたところ近くに同じクラスの学生が座っているのに気が付きました。

その学生というのが「タバコとコーヒーこそわが人生」などと豪語しているようなちょっと変わった?方でして、日本的感覚でいうとどちらかというと遊び人風の風格を持っているのです。その人が一人黙々と机に向かっている姿を見て小さな衝撃を受けました。
チャラチャラした雰囲気の人は大の苦手だったのですが、この光景を見て考えを改めました。見た目や雰囲気に流されてはならないということですね。

日本の大学で勉強していた際は、チャラチャラした学生を見かけると「このチンピラどもめ!」と心の中で目の敵にしていましたが、もしかすると中身は真面目で努力家だったりしたのかもしれません。自分の心が狭かったようです。

以上、人は見かけによらない(かもしれない)というお話でした。


さて、話をアニメ会に戻しますが、今日は前回と異なり最初から見るアニメが決まっていました。Jさん一押しの「HELLSING」という作品です。私はよく知らないのですが、この作品の大ファンという友人がいたため、なんとなく話は聞いたことがありました。
ただ、記憶が確かなら、この作品にはドイツ人に好まれ難いはずの題材が含まれていたはずですが...。


今回はバスでJさん宅まで向かいました。到着すると、Jさん一家の他にもう一人Dさんという大学生風の方がおりました。てっきりJさんの兄弟かな、と思ったのですが友人だそうです。なんでも、彼がHELLSINGのDVDを全部持っているとか。

前回同様、晩御飯もご馳走になってしまいました。そんなこともあろうかと道中お土産の品を購入しておいたのでよかったです。日本だとこういう場合必ず手土産を持参しますよね。
こちらに来てからそういう感覚が麻痺していました。人に親切にされるのに慣れてしまう、という危険な状態に陥りかけていました。そのままだと傲慢な人間になりかねません。目に見える感謝の品を用意することはそういった自分の精神状態への戒めにもなります。
また、ご家族と一緒にご飯まで頂いて「ありがとう」と言うだけでは申し訳ないので、罪悪感を帳消しにする免罪符としても、これからは何かお土産を持っていくようにしようと思います。

さて、食後は早速アニメ会です。
HELLSING」はざっくり説明すると、英国の秘密結社が吸血鬼やゾンビといった魑魅魍魎と戦うというストーリーです。題材こそ吸血鬼ですが、舞台は現代風です。
アニメのテイストは何というか、かなりスプラッタでした。血が出るとかそういう次元ではなく、もげたり千切れたり弾けたりするのです。ぼーっと見ていられるのほほんアニメではありません。
序盤は野良魑魅魍魎と戦っているのですが、中盤に差し掛かると主人公の属する秘密結社に対する悪の秘密結社の存在が明らかになります。この悪の秘密結社が、なんとナチス第三帝国の残党という設定なのです。

ナチス高官が戦後南米に逃れたというのはその筋ではかなり有名な話で、オカルト界隈の一説によるとヒトラーも自殺などしておらず南米に逃げていた、などとも言われています。この話をモチーフに、ナチスの残党が極秘研究として吸血鬼の大兵団を作り上げ、再起して欧州を襲うというようなストーリーらしいのです(まだすべて見終わっていないのでよく分かりませんが)。

そういうわけですので、アニメの中にはファシスト式敬礼やらハーケンクロイツやらだけでなく、当時の軍歌までそのまま出てきてしまいます。ドイツでタブー視されている(はず)のものを詰め合わせたかのような内容です。まさかこんな過激なものをドイツで見ることになるとは...。しかもJさんもDさんも大笑いしながら見ています。見る人が見たら狂気に満ち溢れた光景かもしれません。

ただ、これはドイツ人がナチスあるいはナチ的記号について現在どう考えているのかということを尋ねる絶好の機会です。これぞ天佑!ということであれこれ聞いてみました。

ファシスト式敬礼・ハーケンクロイツについて

これは有名な話ですが、ファシスト式敬礼を(公共の場で)する、あるいはハーケンクロイツを衆目にさらされる場所に描いたり身に着けたりするとドイツでは逮捕されます。また、ナチ的イデオロギーが含まれた歌を公共の場で歌っても同様に逮捕です。
ナチ的な歌というと、ナチス党歌の「ホルストヴェッセルの歌」が有名ですが、Dさん曰く「トルコ人を追い出せ」というような移民排斥思想に満ち溢れた歌なども(おそらくネオナチの間で)存在しているようです。
ちなみに、HELLSINGの中では「英国を討て」といった趣旨の歌が使われています。これはWW2当時実際に歌われていた曲で、原語歌詞そのままに収録されていたので衝撃的でした。

ハーケンクロイツ

「このアニメはブラックジョークのようなものとはいえ、ナチ的記号に満ち溢れているけど大丈夫なの?」と聞いてみたところ、「ハーケンクロイツという記号は今や有名無実というか、影響力の少ないものになっていると思う。誰もが馬鹿馬鹿しいと理解できるし、これを見てナチスを礼賛する思想に至る人はまずいない。その意味で、ハーケンクロイツにはもはや“意味”はないんだよ。
少なくともかつてほど危険な記号ではないと思うよ。」とのことでした。
しかし、ゲームなどでハーケンクロイツが描かれることは敬遠されているらしく、他の欧州諸国で作られたゲームにファシスト式敬礼・ハーケンクロイツが描かれていた場合は当該シーンは全編カット、あるいは単に黒十字の紋章に書き換えられたことがあるそうです。
とはいえ、隣国フランスなどから購入することでオリジナル版を手に入れることは容易だそうで、「実際に店に並んでいなくても今時オンラインで手に入っちゃうよね」とのことでした。

ネオナチについて

ネオナチについて聞いてみたところ「そういえばWuppertalにもVorwinkelだかBarmenだかのあたりにネオナチがいるよ」とのことでした。時々デモなども行われているようです。
しかし、50人のネオナチがデモ行進をすれば3000人のアンチネオナチから敵視の目を向けられるというような状況のため、警察がそのネオナチを守るために護衛しながらデモをするという何とも情けない状況にあるそうです。(Youtubeなどでその様子を見ることができます)
ドイツ人から見ても馬鹿馬鹿しい状況だとのことでしたが、それでもネオナチが容認されているのは、完全に違法にしてしまうとネオナチが地下活動を始めて不可視化されてしまう恐れがあり、そうなると管理も取り締まりも現在より一層難しくなってしまうからだそうです。
そのため「私はナチです!」と発言すること自体も違法ではないとのことでした。こうなるとファシスト式敬礼が違法化されているのがかえって不自然な気もしてきますが、簡単な動作ゆえに伝番力があるからでしょうか。電波だけに...。

ちなみに、「ネオナチの事務所の場所って誰でも知ってるほど有名なの?」と尋ねてみたところ「いや、有名ってわけじゃないけど...あれだよ。日本でも『ここがヤクザの事務所だ』ってことを誰もが知っているけど、どうもしないってことあるでしょ?アレと似たような感じで何となく知られているんだよ。」とJさん。一瞬で納得できましたが、この人の日本事情通ぶりには驚かされます。


話を聞いていて感じたこととしては、ナチアレルギーというほど強烈にナチをタブー視しているわけではないようだということです。むしろ、今やハーケンクロイツを見るとぞっとする代わりに嘲笑の対象にされるくらいにかつてと逆ベクトルで強い意味付けがなされているようです。ナチに関しての価値判断がはっきりなされているために、ナチ的記号が扱われることに対してはかえって寛容なのかもしれません。


こういう話題をドイツで出すのは少し気が引けるのですが、HELLSINGのおかげで色々尋ねることができました。このナチス的何かが本編最後まで敵役として登場するらしいので、また次の機会に色々お話を聞いてみたいと思います。