Wuppertal 留学日記

2013年10月から1年間、交換留学でドイツへ行く機会に恵まれました。体験談などを書き残していきたいと思います。

9日目(10月9日) Mさん宅 ~ 屋外ミュージアム ~ マインツ

前日の夜に、朝食はベルギーワッフルを作ろう!と約束していたので、この日の朝はワッフル作りから始まりました。

どのように作るのだろうと思っていたら、Mさんは粉挽き機を使って何やら穀物を砕き始めました。まさかそこから始めるとは!何かワッフルの素的なパウダーを使うのかと思っていた自分はあまりにも世間を知らなかったようです。

とはいっても、そんなに複雑な作業が必要なわけでもなく、その粉を卵やら何やらと混ぜ合わせてベーコンや何かを乗っけてワッフルの型に流しこんで焼くだけです。

Mさんがやっているから単純に見えただけで、自分でやろうとしたらこう上手くはいかないでしょうけどね。

ワッフルというとお菓子のイメージでしたが、ここでもスキーマを書き換える必要がありました。オリジナルはしっかりした食事扱いだったのですね。

 

朝食後はMさんの職場へ向いました。Mさんは病院に併設された学校で子供たちにドイツ語を教えています。「職場にドイツ語を学ぶのにうってつけの本があるからそれを見せてあげる」ということでした。結局、その本を見せてもらったのに加えて色々プリントをコピーしていただいてしまいました。何だか色々施しを受けてばかりで申し訳ない気持ちになってしまいます。

その後は博物館を見に行くことにしていましたのでそちらへ向いました。

道中、農家を見つけたMさんが「そうだ、牛乳を買っていこう!」と言いました。え、こんなところで売ってるの?と思うくらいに小さな農家だったのですが、Mさんによると昔はよく買いにきていたとのことです。牛乳を売っているというと、パック或いは瓶に入ったものが陳列されているイメージだったのですが、そうではありませんでした。Mさんは車の中に転がっていた瓶を取り出して、「これに入れてもらおう」と言いだしたのです。Mさんと一緒に車を降りて農家のおじさんに話しかけると、牧舎の裏手に案内されました。そこの小さな部屋の扉を開けると、大きな機械の中で牛乳がかき混ぜられています。見たところ、自動搾乳マシーンと一体化しているようなので、搾った牛乳をそのまま冷やし、かき混ぜているようです。おじさんに瓶を渡すと、そこから瓶一杯に牛乳を注いでくれました。瓶一本1ユーロほどです。「新鮮な牛乳」という表現はよく見かけますが、ここまで産地直送な牛乳は初めてです。

Mさんは非常に気さくな方なので、買い物をした後もすぐにサヨナラではなく、何か話をしていくことが多いです。今回も何か農家のおじさんと話していました。無論ドイツ語なので、何を言っているのかは良く分かりません。良く分からないまま牧舎の中に案内されました。「見てごらん」というようなジェスチャーをされた先には生まれたばかりと思しき小牛が!どうやら牛の様子なんかを話していたようです。それにしても、それほど親密でない間柄でも世間話をして仲良くなってしまうのはドイツ人の気質なのでしょうか。それともMさん個人のスキルなのか...?

 

そんなことを経ながら博物館に着くと時刻は3時過ぎでした。色々盛りだくさんな道中だったこともあって、お昼ごはんを食べ損ねていました。

今回はドイツ料理というだけでなく、シュニッツェルを食べてみたい!とリクエストしてみました。シュニッツェルというのはトンカツのような食べ物です。ドイツ語の教科書で写真を見てから一度食べてみたいと思っていました。

博物館の中には食事をできるところがあるとの事だったので行ってみたのですが、時間が時間だったこともあり、「もうケーキと飲み物しかないよ」と言われてしまいました。かといって何も食べずに立ち去るのももったいないと思ったので、コーヒーとチーズケーキをいただきました。

イギリスではティータイムが有名ですが、ドイツでも昼食後の時間帯に「Kaffee und Kuchen」(コーヒーとケーキ)という時間枠があるそうです。これも一種の食習慣のようなものなのでしょう。日本でいうところのおやつの感覚だと思います。時間的にもだいたいそのあたりですね。

 

軽い昼食の後は博物館見学です。博物館といっても一種の「オープンエア―ミュージアム」なのでウロウロしながら見学できる公園のような場所でした。

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▲製材所

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▲塔

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▲昔の子供服...?衝撃的だったので。

 

ウロウロしていたら案外早く時間が経ってしまい、次の予定地へ向うために慌てて車に戻りました。次は、マインツに住む娘さんの所へ向うことになっていました。Mさんの家族巡りです。

予定より少し遅れてしまいましたが、娘さんと合流することができました。娘さんは元気でおしゃべりな方で、「ドイツ料理が食べたいんだよね?任せて!」というようなテンションで迎えてくださいました。

さっきシュニッツェルを食べ損ねちゃったんだよね、というような話をすると「じゃあ晩御飯はシュニッツェルにしよう!作ったことないけど。」との仰せ。三人でスーパーに立ち寄り、色々食材を買いながら聞いたところによると、シュニッツェルにも色々種類があるとのことです。

教科書に乗っていたのは、Viener Schnitzel (ウィーン風カツレツ)でしたが、ウィーン風というだけあってこれはオーストリア名物です。ドイツではJäger Schnitzel (狩人風カツレツ?)[イェーガーシュニッツェル]が代表的なものだということで、それを作っていただけることになりました。

家に着くと、娘さんのフィアンセが出迎えてくれました。フィアンセと同棲しているのです。フィアンセという響きだけでカッコよく聞こえますね。ちなみに息子さんにもフィアンセがいました。

娘さんもフィアンセさんも優しくて素敵な方で、「自分の家だと思ってリラックスしてね!」といってリビングに通してくれました。彼らが料理に取りかかっている間、僕はMさんからドイツ語を教わっていました。「ドイツ料理は準備に時間がかかるんだよね」と娘さんから聞いていましたが、ドイツ語の個人授業を受けていたおかげで時間が経つのが早く感じられました。

 

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▲Jäger Schnitzel

 

マッシュルームを添えたソースがかかっているのがJäger Schnitzelの特徴だそうです。後ろに写っているジャガイモ料理も有名なものだそうです。名前は失念しました。申し訳ない。右手奥に見えるのは赤キャベツのザウアークラウトです。

 

初めて作ったとのことでしたが、今まで食べてきたどのドイツ料理よりもおいしく感じられました。しかも、ビールやワインまでサービスしてくれたのです。

 

 

Mさんにしても、息子さんにしても同様ですが、何故ここまで他人に優しいのでしょうか?Mさん本人とは一緒にイベントを企画しているので、仲良くなることができたのは分かります。が、息子さんや娘さんとは初対面なのにここまでVIP待遇をしていただけるなんて思ってもみませんでした。しかも、日本のような礼儀作法としての客人対応というようなものではなく、家族の一員に迎え入れてくれるような、そんな暖かい雰囲気の客人対応なのです。これが隣人愛の精神の賜物なのでしょうか。

普通赤の他人のために今まで作ったことのない料理にトライしたりしないと思いますが、それも日本的感覚なのでしょうか。とにかく、ありがたさと申し訳なさが合わさって戸惑ってしまいました。

 

 

食事の後もリラックスムードで色々お話してくれました。そういえば、娘さん宅には棚一杯にDVDが並んでいたのですが「日本映画もあるよ」といって紹介してくれたのが『ポニョ』でした。やはり宮崎駿の力はスゴイですね。

日本ではファンシーなジャケットのイメージがありますが、ドイツでは「PONYO」とだけ書かれた神秘的なパッケージでした。

ついでに、『ナウシカ』の話や『千と千尋の神隠し』の話などもしました。

千と千尋に関しては、ドイツで完全に日本とは異なるタイトルになっていました。

『Chihiros Reise ins Zauberland』です。直訳すると「千尋の魔法の国への旅」といった感じです。原題よりも分かりやすいような気もしますが千はどこへいったのか。

「日本語では『千と千尋の神隠し』っていうタイトルなんだよ」と説明すると、「それはどういう意味なの?」と尋ねられました。

皆さんであればどう訳しますか?特に「神隠し」の部分を。

僕の場合は咄嗟に思いついたのが「Kidnapping by god」でした。娘さんには「ああ、Abductionのこと?」と切り返されてしまいました。

Abductionというとすぐにエイリアンによる誘拐事件を連想してしまう僕にとっては、そちらの方が神隠しのニュアンスを上手く盛り込めているかもしれないと思いましたがどうなのでしょうか。上手い訳が浮かびません。

 

そんな話をしていたはずなのに、なぜかその後「KIll Billを見よう!」という流れになりました。なんでもフィアンセさんが大好きな映画らしく、またMさんは見たことがなかったらしいのでそれもあって是非見ようということになったような気がします。

僕はVol.1に出てくるあの妙な日本が好きなので、一度見たことがあったとはいえ楽しむことができました。Mさんはバイオレンスなシーンが苦手なようで、枕で顔を隠しながら「もう野蛮なシーンは終わった?」みたいな反応をしていました。この人にKill Billを見せるのは無理なのではないかと思いましたが、終盤の殺陣のシーンになるともはや耐性が付いたのか、普通に見入っていました。

そういえば娘さんはデザイン系の職場で働いているそうで、映画を見ていた際も「このカットがキレイなのよ」とかそういう話をしてくれました。部屋には映画ポスターもあちこちに貼ってあり、また自作した作品のようなものも色々と飾ってありました。

Kill Bill vol.1には「ゴーゴー夕張」という変な女子高生が出てくるのですが、このゴーゴーは主人公と戦った挙句に頭に釘が刺さって目から血を流して絶命するという極めて悲惨なキャラクターなのです。ただ、この死に顔がMさんの娘さんの芸術センスを刺激したのか、リビングの壁にゴーゴーのデスマスクをモノクロでデザインした絵が飾ってありました。何も考えずに見ていると「うへぇグロテスクだなぁ」で終わりですが、美術的観点から見ると全く違って見えるのかもしれません。

着眼点を変えると一度見た映画も全く違う楽しみ方ができるということが発見できました。

 

こちらの人たちはみんなで映画を見るというのが共通文化なのでしょうか、Mさん宅でもここでも一緒に映画を見るという体験をしました。それも、受動的にテレビで放映されているものを見るのではなく、DVDやら何やらを自分で購入して能動的に見るようです。映画も教養として確固たる地位を得ているのでしょう。

 

Mさん宅も息子さん宅も居心地が良かったのですが、この娘さん宅が最も居心地が良く、印象に残りました。娘さんとフィアンセさんの醸し出すオーラが暖かさを演出していたのかもしれません。