Wuppertal 留学日記

2013年10月から1年間、交換留学でドイツへ行く機会に恵まれました。体験談などを書き残していきたいと思います。

26日目(10月26日 土) 帰ってきたヨッパライ

気が付くとなぜかプールにおり、よく分からないメニューをこなしています。それも全く歯が立たず、へろへろになりながら周りについて行くという高校時代を思わせる状況です。というかここは高校のプールです。なんで今頃...という夢から覚めて一日が始まりました。(挨拶)

 

もう高校卒業して三年は過ぎ去っているというのに、未だに時々部活の夢を見ます。しかも、そういう時は目覚めてからも気だるさが残っていることが多く、いいことなしです。今日も例にもれず体が重い目覚めでした。

スポーツカードで水泳に思いを馳せたからでしょうか?

 

それはさておき、今日は書類整理と情報収集に半日を費やしました。なんのための情報収集かというと、日本からの荷物の郵送方法です。

こちらに来る時にスーツケースに詰め切れなかった荷物を後日送ってもらう事にしたのですが、周囲の日本人学生の話を聞くと税関で止められてしまうことが多いとのことでした。日本から無事に荷物が届くだけでもありがたい話ではありますが、できることなら家まで直に届けてほしいところです。

ということで、税関で止められないためにはどうしたらよいのかという話を日本人学生としていました。

聞くところによると、荷物を郵送する際に「送る物の値段」と「中身」を記入しなければならないそうです。その際に、金額が5000円以上であると引っかかる可能性が高いようです。とはいえ、洋服だってそんなに安いものばかりではありませんし、冬物となればコートなどの多少高額なものが含まれてきます。じゃあどうするの?という話ですが、適当に30ユーロなどと記載すればよいそうです。

なんと不実な!と思われる方もいるでしょう。しかし、冷静に考えてみてください。仮に1万円で買ったコートがあったとしても、すでに自分が使用したものであれば価値は下がっているはずです。ですから、そこで下がった価値を換算した結果として5000円以下になったと考えればよいのです。

また、中身を記載する際もただ「コート」「シャツ」などと書くだけではよろしくないようです。というのも、新品を輸入していると勘違いされてしまい、税関で止められる原因になる可能性があるからだそうです。

ですから、品名には一つ一つ律儀に[Used]と記載する方が税関をくぐりぬける確立は上がるようです。

海外に荷物を送るとなると非常に不安です。こうして情報を教えていただいたものの、途中で消滅したらどうしようなどと考えてしまいます。とはいっても、自宅の方でせっかく発送の準備もしていただいたので送ってもらわないわけにもいきません。また、帰りにはこちらから日本へ荷物を送ることもあるかもしれません。それを考えると、このようなところで不安になって足踏みをしていたら前へ進めないではありませんか。

というわけで、今週中には発送をお願いする予定です。これについては、結果の如何によらずまた結果を報告します。

 

さて、半日はそんな感じで終わりましたが今日は一度も外に出ていませんでした。これは良くありません。晩御飯がてら買い物、といういつもの理由で町へ出かけることにしました。

といっても、ご飯を食べる場所も徐々に限られてきました。そろそろ新しい店を開拓したいところではありますが、その前に今まで行った店で試したことのない料理に挑戦することにしました。

またまたSushi and moreに行ったのですが、今日はスシではなくThai-Bratnudeln(タイ・焼きビーフン)を試してみました。あんかけ焼きそばのようでそこそこ美味しかったです。

一人ひっそりと隅っこで食べていたら、白髪の陽気そうなおじさんが「ここ、いいかな?」という感じで同じテーブルに座って来ました。同じテーブルといってもそこまで小さなものではないので全く不自然なことではありません。

「もちろん!どうぞ。」

と答えると、さらに何か話しかけてきました。「?」という表情をしていたら、「英語かドイツ語分かる?」と聞いてきました。またこのパターンです。「英語なら何とか分かります」と答えると「それはいい!」という感じで英語で話しかけてきました。

「アジア人のようだけど、どこから来たの?」

「日本です。日本から来ました。」

「あぁ~!日本か!」

と言ったかと思ったら

「はいっ!いっちょあがり!」

などとよく分からないセリフを大声で叫び始めました。え?なんなの?何の話?と思っていると、今度は突然ドイツ語で訳の分からないことを言い始めました。しかも、手でちょび髭などのジェスチャーをしており、どうやらヒトラーのものまねをしているようなのです。

これはトンデモナイおじさんに絡まれたなぁ...と思ったのですが、危機感よりも何を伝えようとしているのかということに興味が湧きました。なによりこのおじさん、ノリノリなのです。満面の笑みで話しかけてくるのです。これを無視して逃げるなどできようはずもありません。

おじさんが落ち着いてから話を聞いてみると、日本語の「はいっ!」というはきはきした発音が「ハイルッ!」に聞こえるというようなことを言いたかったようです。かといって日本語を茶化しているわけではなく、おじさんによると日本語とドイツ語の発音はとてもよく似ているとのことでした。

「特にMilitary Languageはそっくりだよ」とおじさん。きっと戦争映画でも見たのでしょう。

おじさん曰く「フランス語の鼻から抜けるような発音やイタリア語やスペイン語の流れるような発音と違って、ドイツ語はハッキリ語と語を区切る。日本語もそんな感じだろ?これは本当に似ているよ。」

とのことで、そんなことを言いながらまたヒトラーのものまねを始めました。しかも声がデカイ。これは色々な意味で危ないおじさんのようです。心なしか周囲の人たちに「嫌ねぇ」という目で見られていた気がします。自意識過剰だっただけだと願いたいところですが。またヨッパライかなと思っていたところ、これからお酒を飲むところだったらしく、スシを食べながら白ワインを飲み始めました。

食もお酒も進みさらに調子が良くなったのか、その後も色々お話をしました。

「なんでドイツ語を学びに来たのか?」とか、「日本のどこに住んでいるのか?」などよくある質問をされました。

日本は戦争が原因で未だに中国や韓国との間に軋轢が...とドイツに興味を持った理由を説明をしていると、「おっと、ここの店員は中国人なんだから気をつけろよ」という感じにジェスチャーで制されました。そういえばそういうことを全く気にしていませんでしたので、急におじさんが頼れる男に見えてきました。

「ともかく、ドイツと日本は発音だけでなく歴史的にも似通ったところがあると思います」

と伝えると、

「ああそうだね。それにセンスというか性格も似ていて共感を覚えるよ。」と前置きした上でこんなことをお話してくれました。

「日本といえば、ドイツ人からすればドイツ人の上位互換(gut Germanみたいな表現でした)のようなものだったんだよ、福島の件まではね。それまでは日本人といえば一種の尊敬の対象だったが、福島の件は一向に改善しないようじゃないか。日本の政府も嘘ばっかりのようだし、もはや日本を完全には信頼できない部分もあるね。今や権威は失墜しつつあるよ。」

というのです。

なるほど、海外へはこういう形でも”日本”そのもののイメージに影響を与えているのかと思いました。

 

日本を発つ直前に東京オリンピックが決まりました。原発の問題を抱えながらの決定でしたので、海外からは危険は収まったとみられたか、あるいは同情的な視線を向けられているのではないかと考えていましたが一概にそうとも言えないようです。

東京オリンピックは津波と震災で傷ついた日本を慰めるような意味で決定したのかもしれないとおこがましいことを考えていましたが、そうでもないのかもしれません。

今や日本のイメージは「スシ、ニンジャ、ゲイシャ...イェー!」ではなく「ツナミ、フクシマ、ラジエイション...ノー!」という感じなのかもしれません。2020年には好印象を与えることができるのでしょうか。

よく分からないヨッパライのおじさんかと思いましたが、色々考えるきっかけを作ってくれました。不思議でありがたい?出会いだったなぁと思っているとそのおじさんはおもむろに立ちあがり

「さて、そろそろスーパーに買い物にいかなくちゃ女房に殺されちまうよ。性的な意味で。」

などと訳の分からないことを言いながら去って行きました。

「どうもありがとう。またあったらよろしく!」

と和やかに別れましたが、こういうよく分からない形で他人と関わることは日本では考えられませんね。

日本であれば、相席するにしても会釈以上のコミュニケーションは必要なかったりします。これもドイツ気質...なのでしょうか。

それにしても躊躇なくヒトラーのものまねを始めたのには焦りました。そういうのはドイツではタブーかと思っていたのですが...というかタブーのハズですが。そのようなことは、おじさんには関係なかったようですね。それでもさすがにファシスト式敬礼のものまねはしていませんでした。そこに見えないボーダーラインがあるのかもしれません。ヒヤヒヤです。