Wuppertal 留学日記

2013年10月から1年間、交換留学でドイツへ行く機会に恵まれました。体験談などを書き残していきたいと思います。

187日目(4月5日 土) イギリス旅行 その2 ~Bovington Tank Museum "Tigerday"~

ボービントン戦車博物館 "Tigerday"

昨年11月末にムンスター戦車博物館を訪れてから早4か月、留学期間中二度目の戦車博物館見学です。ミリタリー博物館としてはほかにコブレンツ軍事技術博物館も訪れましたが、あそこは「戦車もある博物館」であって戦車博物館ではないので、今回が二度目ということになります。

ムンスターは日本を出る前から一度訪れるつもりでいたのですが、ボービントンはこちらに来てからその存在を知りました。
ムンスターに行けばドイツ戦車は一通り見られるものと思っていたのですが、ヤークトティーガーなど、いくつかムンスターに置いていない戦車がありました。どこかに現物を見られる場所がないかなーと探していたところボービントンに行き当たりました。ボービントン戦車博物館は世界最大の戦車博物館と言われているそうで、その収蔵品の種類・数はムンスターをはるかに超えているようです。

公式webページも非常に気合が入っています。↓
よろしければムンスターと見比べてみてください。

ボービントン戦車博物館(http://www.tankmuseum.org/)
ムンスター戦車博物館(http://www.panzermuseum-munster.de/index.php?id=50)

ついでにコブレンツも。↓
コブレンツ軍事技術博物館
(コブレンツは連邦軍管轄の学習施設的性格が強いこともあって、webページも極めて控えめです。上掲3つのミリタリー博物館の中では、最も閉鎖的といえるかもしれません。とはいえ、誰でも見学に行くことはできるのですが、あくまで本来想定している来場者は連邦軍関係者のようです。(軍人・軍属ならば入場無料)ただ、一般客の入場料も3ユーロと抜群に安いです。
ドイツ語のページですが、左側メニューの「Exponate」をクリックすれば何枚か写真も見られます。)

ちなみに、ページをご覧いただければお分かりになられるかと思いますが、ちょっとポップな戦車博物館です。ムンスターは寒々とした格納庫内にドーン!と戦車が並べられているのですが、ボービントンは「家族向けアクティビティ」のようなものが紹介されていたり、展示ホールの様子がテーマパークっぽかったりと、万人に開かれたミリタリーテーマパークといった雰囲気を醸し出しています。それに比べてムンスターはwebページも少しおとなしいですね。


そして、このボービントン最大の特徴が博物館脇のアリーナです。なんとここで実車の走行風景をイベントとして展示しているのです。しかも、WW2当時の車両の!

残念ながら毎日行われているわけではないようですが、この日は奇遇にもTigerday。その名からお察しの通り、Tigerの実車走行が展示されるイベントdayなのです!

このために昨日若干無理をしてDorchesterまで来ていたのです。ボービントン戦車博物館の最寄駅はWoolですが、Dorchesterからならたったの二駅、約10分ほどの距離です。この日は土曜日ということで鉄道工事があり、結局バスを使うことになり30分ほどかかってしまったのですが、それでもロンドンから2時間30分かかることを思えば早いものです。このあたりのことは明日分の記事で書くことにします。
今日はイベントの話を。


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▲ボービントン戦車博物館

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▲実銃触り放題イベント のようなこともやっていました

照準器越しに景色を見てみようと思い、RPGを持ち上げようとしたら お、重い... 担ぐところまでいけませんでした。
それならばとAKを持ち上げてみようとしたのですがこれまた重い。突撃銃ってヒョイっと持ち運べるものかと思っていたのですが、ヨッコラセという感じでした。擬音説明でアレですけど...。

それに比べてM16ですよ。驚くほど軽い。それこそ私の想像通りのヒョイでした。これがプラスチック力か...。

と感心していたところ、そばにいたおじさんが置いてあるAKシリーズを指して「あれ、これストックがプラスチックだね?レプリカなの?」と尋ねていました。管理していたお兄ちゃんが「ああ、それはそうだよ」というような返事をしていたのですが、もしかして他のもレプリカだったの?便乗して質問したわけではないので結局よく分かりませんでした。

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▲チャレンジャー(試作車両らしい)がお出迎え

受付でチケットとパンフレットを購入。「今日はTigerdayなんですよね?」と確認するとイベント一覧表をもらうことができました。


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▲Tigerday イベント一覧


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▲館内にも案内があります


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▲入ってすぐのところでは、早くも来年のTigerdayのプレミアムチケット販売が行われていました

Tigerdayには二通りの参加スタイルがあるようです。
1つ目は一般客として楽しむスタイル。
これには事前予約の類は一切必要ありません。ただその日に現地に居れば、先ほどのイベント一覧表に書かれていたようなイベントを楽しむことができます。目玉であるTiger131号車のアリーナ走行を見学するために必要なのは一般入場券だけですので、何か特殊なチケットを買い求める必要もありません。

2つ目はプレミアムチケットを購入して案内してもらうスタイル。
こちらは特殊な参加方法で、上掲の写真内で販売されている「プレミアムチケット」をイベントまでに事前購入しておくことが前提となります。これは博物館公式ページを通じてweb購入も可能らしいので、興味のある方はそちらから調べてみてください。
2014年版ページ(参考)
(http://www.tankmuseum.org/ixbin/indexplus?record=ART3923)

通常と異なる点は、朝から晩までイベントが組まれている点です。0830時の朝食イベントに始まり、専門家による解説付きの博物館見学、Tigerの保存に関するレクチャー等々のイベントに参加し、昼食後は実車走行見学、レストア関連の見学、そして午後のティータイムまで、丸一日戦車尽くしのアクティビティに参加することができるらしいです。お値段は150ポンド!日本円にして2万円超といったところ?一日ですべてを味わい尽くしたいという方はこちらのチケットを購入するという手もあるかもしれません。

私は1つ目の一般客方式で参加しています。ギリギリまで行こうかどうか迷っていましたし、150ポンドはちょっと...。

ですので、参加したイベントは実車走行見学のみです。他にも解説イベントは後ろからついていくこともできたようですが、その時間は一人であれこれ見ていました。この博物館、常設展示だけでもかなり見ごたえがありますので、イベントがなくてもお腹いっぱいになれます。
実はそれを見越して、明日改めて通常展示を見に訪れる予定です。

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Tiger画展...かと思いきや売り物でした。これ以外にも戦争画というか兵器画を扱ったお店が通路にいくつかでていました。


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▲他には軍装品等小物展示。こちらは販売しているわけではないようです。


と、いった具合に通常展示以外にもあれこれ見どころが用意されていました。
あれこれ見ていたらあっという間にお昼過ぎに。走行イベントは1330からですのでアリーナに行ってみました。すると既に人だかりが。


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▲しまった!出遅れた!と思いきや、案外見晴しが良かったので助かりました。


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▲アリーナ内には戦車回収車と思しき車両が配置されています。いざという時のためでしょうか。


そろそろイベントが始まるという頃になって、小雨が降り始めました。最初は気にならないレベルだったのですが、どんどん雨足が強まってきました。あぁカッパを着てくればよかった...と思い始めたころイベントが始まりました。

開始前にアナウンスが入るのですがこんなことを言っていました。
「皆さん、くれぐれも興奮して柵を乗り越えてコース内に侵入するようなことのないようお願いします。戦車の視界は非常に悪いです。ですから急な事態に対処できる保証はありません。ですので、絶対に、くれぐれも、ホント頼みますんでコース内に入らないようにお願いします。」
pleaseを三段重ねで使用して注意の放送が入る徹底っぷりでした。過去に何かあったのでしょうか。


そうそう、Tigerdayとはいうものの、Tiger以外にも何両か参加します。以下、お粗末ですが写真をお楽しみください。

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▲1両目はこちら。あらカワイイ。マチルダ1ですか。
どうせならマチルダ2が見たかった気がしないでもありませんが、"お通し"ということでしょうか。


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▲2両目。これはバレンタインの水陸両用仕様、バレンタインDDというらしいです。お通しに続いて前菜のサラダのような立ち位置でしょうか。


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▲3両目。またまたバレンタイン。これでスープくらいまでたどり着いたのかな。


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▲4両目。ここにきてアイドル登場。T-34/85。もはやメインディッシュ。他の戦車と比べてエンジン音が激しかったです。あと、写真がスモークがかっているのは排気煙も一つの原因ですが、主にレンズがぬれていたせいです。眼鏡もディスプレイもぬれていたのでイベントが終盤に差し掛かるまで気が付きませんでした。演出ということでご勘弁を。


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▲5両目。三号L型。なんというイケメン。


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▲6両目。アイドルその2。ケッテンクラート。アリーナに登場した途端会場が笑いに包まれました。キャーカワイイ!まさにアイドル。


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▲7両目。もはやデザートといったところでティーガー登場。見てくださいよこの3号をも凌ぐイケメンっぷり!本日Tigerdayの主人公です。
ここまで戦車が立て続けに登場する中、アナウンスで各車両の解説がなされていたのですが、ティーガーが出てきて解説がちょこっと入ったと思ったら、「それではこのエンジン音を皆さんに堪能していただくために、私はしばらく黙りますね」と言ってアナウンスが一時途切れました。主役は扱いが違いますね。


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▲右下の傘がなければベストショットだった気がする一枚。結構雨が強まっていたので傘を差したい気持ちは非常によく分かりますが...うぅ。
それにしてもエンジン音が静かです。T-34と比べたらプリウスですよコレは。かなり丁寧に操縦されているようで、スピードもゆっくり。


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▲「センチュリオンが通りますよ!」突然大きなエンジン音を響かせ登場。8両目。
この間、ティーガーは観客の目の前に停車していました。お写真タイムでしょうか。


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▲停車中の一枚。ここに至ってレンズ拭きました。


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▲ !?


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▲レオパルド君じゃあないか。突然だなぁ。
しかも、他の車両と異なり、色々パフォーマンスを披露してくれました。写真にあるように段差を乗り越えたり...


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▲アリーナ中央の丘に登ってこっちを向いてくれたり。丘に登ってから超信地旋回でクルッとこちらを向く様はかわいかったです。


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▲なんともいえない光景
レオパルドが走ってきてティーガーのエンジン音の小ささがより際立ちました。レオパルドのエンジン音はお腹に響くような感じの重たいものなのですが、ティーガーはそこまで体に響くものではありませんでした。
以前、総火演を見学したことがあるのですが、90式のエンジン音はズモモモモといった低い音で、耳で聞き取るというよりは体に響いてくるような音だったように記憶しています。レオパルドはそれに近い感じでした。
ティーガーは書き起こすならばブーンとかブロロロとか、漫画に出てきそうなエンジン音に感じました。


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▲レオパルドが帰って行った後、最後に会場を後にするティーガー
これで終わりかぁ...と思いきやまだまだ見せてくれました。ここから駐車場脇を通って格納庫まで帰るところまでパフォーマンスの一部のようです。


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▲駐車場越しのティーガー


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▲しばらく停車中。


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▲なにやらお話し中。


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▲動き出しました。


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▲去りゆくティーガー


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▲さらばティーガー。ありがとうティーガー


と、いった感じでイベント終了です。
さすが戦車発祥の国イギリス!格が違った!スゴイ!イギリススゴイ!
女王陛下万歳!ルールブリタニア


写真より動画だろ!エンジン音も聞きたいじゃないか!という方はYoutubeで検索すると色々動画が出てきます。そちらを参照してみてください。


以下感想・妄想。
写真をご覧になりたい方は翌日分の記事にも多少掲載する予定ですのでそちらもどうぞ。


私はそこまで戦車に詳しいわけではありません。多少見分けがつく程度です。そんな私が今回のようなイベントに参加していると思うと、誰に対してでもなく申し訳ないような恥ずかしいような気持ちになってしまいます。

それでも、行ってみてよかったです。ムンスターを訪れた際に感じたのですが、戦車博物館はミリタリー趣味者にとっては美術館のようなものだと思うのです。小難しいことを考えず、単に戦車を眺めているだけでも感動的な体験になりました。歴史的背景や性質等々を知れば知るほど面白いというのは理解できます。しかし、それだけではない何かがあるような気がします。

そこまでコアな戦車ファンではない私にも魅力的に感じられるのは何故なのか...。あくまでも兵器ですから、戦車を賛美するようなことは色々誤解を招きそうですが、この姿形の美しさは人を魅了するものがあります。いや、"人を"と一般化してよいのか分かりませんが、少なくとも私だけではないはずです。今日だって会場にこれだけの人が集まっていたのですから。


留学でドイツに渡ってきてから、人間の適応力の高さに驚かされています。
こちらに来たばかりの頃は、買い物一つとっても今まで知っていた日本式とあれこれ異なっていて、発見や感動の連続でした。それが、一か月...半年...と月日が経つにつれて日常化されてしまい、かつて驚いていたことに何も感じないようになっていきました。また、多少新しいことに出会っても動じないようになってきてしまいました。
これは適応力・対応力が向上したと捉えれば喜ばしいことなのかもしれませんが、少しさびしいことでもあります。日々が無味乾燥としたものに感じられてしまうからです。

身の回りのあれこれに慣れ始め、日々の退屈さを感じ始めていた頃ムンスターの博物館を訪れました。特別展コーナーを抜け、格納庫の入口の扉を開けた時のあの興奮、そして初めてティーガーと出会った時の感動はひとしおでした。"雷に打たれたように"とはこういうことを言うのかとその場で理解しました。それくらいドキッとしました。これって一目惚れ?恋?と思ったほどです(違)

そして今回、イギリスまで来て動いているティーガーに出会うことができたことは、理屈を超えた意味があるような気がするのです。
おそらく、いや間違いなくこれは自分の将来に役立つ経験ではないでしょうし、この経験を生かしてキャリアプランを立てることができるとは到底思えません。単に自身の趣味に対する欲求を満足させたものでしかないのかもしれません。
それでも、"何かを見て感動する"ということはやはり素晴らしいことだと思います。


...おそらくここまで読んでしまった方の9割、いや10割が「キモチワルッ」と思っておられることでしょう。対象が戦車であるからなおさら「アレな人」感が増しているかもしれません。ですが、見てみたかったものを見る、聞いてみたかったものを聞くというのはいいものです。

どうせ人の趣味なんて今の時代ネットやサブカルの影響も相まって、十人十色どころか千人千色、万人万色なのですから、著しく公序良俗に反していない限りは好きなものを追及していけばよいのではないかと思います。というよりも、コンテンツがあふれかえっているために自分が何を好きなのか自覚するのもやや困難になっているのではないかと感じます。

その中で、これを見れば感動できる!これが私の趣味!というものを再発見できたことは私にとっては喜ばしいことです。戦車...ああ戦車。日本に帰ると見られる場所がないというのがネックです。悩ましい趣味だなぁ。